【野生の山】

12月の東京地方は殆ど雨が降らなかった気がする。年末年始も同様で、3日の未明に少し降雨があったようだが、4日(土)は晴天に恵まれた。ただし気温は日に日に寒くなっており、同じく奥多摩地方も12月に訪れた時より寒かった。なんだかんだと片道2時間ほどの林道を黙々と歩いていた。それなりの時間や費用が掛かろうとしても、今回の山塊調査には意義があり、またすべてを凌駕する(個人的な)山行なのである。
東日原バス停までは予定時刻通りで移動した。これより先、富田新道登山口までの林道歩きを2時間以内と想定し、前回より気持ち早足で歩を進めた。中日原から西方にそそり立つ稲荷岩を通り過ぎ、日原鍾乳洞と分岐するT字路を左折し八丁堀方面へ進む。舗装された道路から、砂利道の林道に変わり、歩く事20分ほどで伊勢橋を渡る。その後、日原川の左岸沿いには稼働しているのか、廃鉱なのか不明だが、立派な採掘工場がひっそりと佇んでいる。このあたりからかなり大きい滝がみられるようになる。高い岩壁から一筋の水線が滝に流れ落ちるところがあり、その様相は小便小僧の小水のごとし。小便滝と名付けた。歩き始めて小一時間ほどで八丁橋に到着した。八丁橋の広場には黒いワンボックス車が一台停まっていた。釣りの時期でもないし、何用でこんなところに、と思ったが自分がしている事も大して変わりはないので(車の方は仕事かなにかで来ているのかもしれないし)気にせずに進んだ。
日原川左岸の林道は沢筋から付かず離れず上流へ向かって行く。山側は切り立った岩壁が続き、落石防止用の鋼製網が張り巡らされているが、所々に砕け散った岩の残骸が転がっている。陽当たりの良いなだらかな斜面では不意に落石が落ちてくる。鹿の仕業である。はっと斜面の上方を見上げると可愛いバンビの尻が逃げていくのが見えた。当たったら大変であるが、奥深い山に入り込んできた者へのご褒美だろうか。自然を感じ、心が和らぐ瞬間である。名栗橋(標高900)を過ぎ、標高964地点(広場の様な非常に陽当たりが良い谷)も過ぎると富田新道登山口はもう目と鼻の先だ。
分岐入り口でトレッキングポールとチェーンスパイクを準備する。ここから先は落ち葉で足元が定まらない。くわえて斜面に登山道が続くため、万が一足を滑らせてしまえば斜面を沢まで真っ逆さまだ。チェーンスパイクの爪を地面へ突き刺す様に、落ち葉の多いところでは慎重に歩いた。また、バランスを保つためにトレッキングポールも活用し、四つ足で歩く獣の如く、急斜面を登って行った。この自称TC(トレッキング、チェーン)作戦が功を奏した。多くの登山者が踏み鳴らした登山道であるならば何も問題はないが、この季節にこのコースを歩いている登山者は皆無ではないだろうか。その証拠に登山道は落ち葉に厚く覆われジグザグに進む急傾斜面では度々コースを外れたくらいだ。そんなズルズルと滑るであろう地面を足裏(とポール)が的確に捉え、前回に比べてかなり快適に進むことができた。
大きな木の根元にあるポッカリとした穴があると、クマが冬眠の為に中にいたらどうしようなどと思い、そのたびに「ホウホウ」と声を上げてドキドキとしながらそれとなく通り過ぎた。そうこうしている内に七ツ石分岐の道標に辿り着いた。ひとまずは前回よりも歩を進めることが出来てホッとしたのであるが、今回の予定は尾根を越えて向こう側の大雲取谷の沢に降り立つことであり、しかも未だ一般登山道の上にいるわけで、まだ何も始まっていない状態である。若干急な斜面をスイッチバックで登りつづけ、少し尾根に近づいたと思われる辺りで一般道を離れた。地図とコンパスで整置を行い進む方角を定め、北方面(大雲取谷側)へとトラバースしていった。
自分の意思で一般登山道を外れ、私は今、野生の山に迷い込んだ。

山行詳細(備忘録)
- 奥多摩駅から鍾乳洞まで、バス移動の際は西東京バスの利用となります。下記リンクより「西東京バス ハイキング時刻表」(奥多摩・御岳山エリア 2024年10月1日改正)で確認出来ます。※平日(月~金)と土曜・休日で出発時刻が異なりますので注意が必要です。
https://www.nisitokyobus.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/09/20241001_Hiking-Okutama.pdf
西東京バス株式会社H.P.より
https://www.nisitokyobus.co.jp/rosen/pocket.html
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