山塊(奥多摩偏)③

山塊

【昂り】

尾根から大ダワ林道を望む

 尾根の反対側へ出ると視界が開け、眼前は切り落ちた急傾斜面となった。一瞬「?」と感じたが、直ぐに状況を理解した。崩壊部である。地図を見ながら何となく、ここは避けて手前か奥の等高線の緩い尾根を下降しようかな、なんて思っていたのに、ドンピシャで崩壊部に出てしまったのだ。

 尾根に積もった雪庇の形に似た様相で細い尾根が続き、えぐれる様に地面が流れ落ちている。雪庇風の尾根が崩れないように注意しながら何となく下降できないかと思っていたが、もし下降中に遭難したら一溜りもない。しかも崩壊部を懸垂下降して土砂崩れに合ったなんてしれたら避難ごうごうだ。仕方なく斜面が崩れ落ちてないところまで戻り、灌木が茂ってきた辺りでしっかりとした木の幹にスリングを回し下降点とし、「ロープダウン!」の掛け声で勢いよくロープを斜面下へ投げ込んだ。

 が、しかしその掛け声はむなしく、枯れ枝に絡まりクチャクチャになったロープが直ぐそこにぶら下がっていた。流石に岩場で懸垂下降をするときのようにはいかないらしい。泥臭い懸垂下降、それも良い。枝に絡まったロープをほどいては投げ、ほどいては投げ、下降していった。気持ちは昂っていた。登山道がない、ただの山で地図を見ながら進み、その先の風景を見る。最高な気分であった。

 今回の山行の結末を言うと、持参した30メートルのロープでは沢まで辿り着く事が出来なかった。やむを得ず下降したロープを登り返して下降開始地点まで戻った。ダイナミックロープを使用していたため、登り返しの際にロープが伸縮を繰り返し、作業はそれなりに難儀した。用途が昇降目的であるならばスタティックロープを使用した方が効率は良いのだろう。アッセンダー(登高器)もスリングとカラビナで何とか凌いだが、こちらも専用のアッセンダーを持っていると楽なのは自明である。

 ただ、先に述べたように気持ちは満たされ、さらに言えば昂り、高揚している自分がそこにいた。

山行詳細(備忘録)

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