
週末の天候は良好、初めて訪れる上高地は最高な山行となるに違いないと、高ぶる気持ちのなか、颯爽と夜行バスに乗り込んだ。
翌朝5時過ぎに大正池バス停で下車。冷たい空気に慌てて防寒着を身にまとい、晩夏の上高地の洗礼をうけた我ら親子の冒険は始まった。上高地のバスターミナルではなく、大正池下車にしたのは私の希望で、道中の岳沢湿原やウェストン碑をみたかったのだ。焼岳、明神岳の眺望に心を奪われ、改めて上高地へ来て、この大自然を子供にも見せることができ良かったと思った。河童橋では賑やかな上高地を感じながら小休止、梓川の右岸を進み明神池畔の嘉門次小屋で昼食にそばを食べた。嘉門次小屋の訪問も私の個人的な希望である。明神橋を渡り、梓川左岸を進み徳澤園を経由し、横尾幕営場で初日は終了。テントを設営して早々に就寝した。

二日目、いよいよ涸沢カールまでの登山。前日、子供はかなり疲れた様子で夕方から翌朝まで夕飯も食べずに12時間以上も爆睡した…が、そのせいか完全に体力が回復しているようだ。横尾谷の緩やかな斜面を進み、昼前に本谷橋に到着し小休止、昼食をとった。山間の静かな川原、冷たい川の水で涼をとり、いざ涸沢カールまでの急傾斜を登り始めた。道中、様々な鳥のさえずり、都会では見かけない花草に励まされ、子供は快調にザレ道やガレ場を駆け上がっていき(私は行き絶え絶えに登り続けた…)、15時に無事、涸沢ヒュッテに到着した。小屋のテラスから眺めた山々の大きさ・絶景に圧倒されながら食べたポテチは、都会では味わえないくらい美味だった。夕食は小屋の贅沢な食事に舌鼓をうち、この日は山小屋の方々の演奏会も催され、素敵な時間を過ごした。

三日目、朝から曇り空だったが、出発するころにはパラパラと雨が降り始め、雨具を装着しての下山となった。昨日は喘いで登ってきた道を軽快に降っていく。本谷橋につく頃にはすっかり本降りとなっていたが、雨に濡れて生き生きとした草木をみながらの山行も悪くないね、と歩を進め横尾幕営場まで降りてきた。着替えをして雨具を乾かしているあいだ、昼食をとっていたら雨が上がってきた。雨の中でテントの設営をしなくて済む…と私は内心ホッとした。徳澤園キャンプ場に到着する頃には青空もでて、つくづく天候に恵まれた山行だったと思った。

四日目、徳澤園から明神まで、初日の事を懐かしく思いながら歩き、あっという間に河童橋まで戻ってきた。相変わらず賑やかな河童橋の片隅で、昨夜に炊いた白飯を食べ、梓川の河原で遊んだり、河童橋の絵を描いたりしてバスの出発まで過ごした。
都会での日々の喧騒から離れ、大自然の中でいつもと違う生活を送る。わずか四日間ではあったが、我々親子にとっては刺激的で、とても贅沢な時間だった。ありがたいことに、道中、行く先々でたくさんの方に声をかけて頂き、子供も頑張るモチベーションを保ち続け、最後まで冒険を続ける事が出来たのだろうと思う。また、冒険しに行こうとか言って、子供を連れまわしている親のようにも感じるが…子供もまんざらではなく、また次回、次は山頂を目指したいと言う。我々親子の冒険はまだ続くのだと、私はうれしく思った。
※本記事は「岳人」2023年11月号(NO.917) 山の掲示板に掲載いただいた記事の原文となります。
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