
徳沢を出発し長塀尾根の長い登りを経て、漸く長塀山に辿り着いた。4㌔程の道のりだが、その間の高低差約1000m、実に5時間もの行動の末のランドマークに我ら親子は破顔一笑した。
蝶ヶ岳までもう一踏ん張り。道中、妖精ノ池では可愛いサンショウウオの幼生(妖精?)たちに出会い、ほどよくして森林限界を超え、稜線に出るといよいよ蝶ヶ岳ヒュッテへ到着した。テントを設営し、休む間もなく目と鼻の先にある蝶ヶ岳山頂へと向かった。
ちょうど一年前、初めて上高地を訪れ、涸沢カールまで登山をした我ら親子の次なる目標であった「北アルプスの山頂に立つ」は無事に蝶ヶ岳で達成された。翌朝、広がる雲間から太陽が昇り、次第に青空がのぞき始め、朝日に照らされた穂高連峰の眺望に親子で暫し見惚れた。

蝶ヶ岳から蝶槍まで、稜線を覆うハイマツ帯をすり抜けるよう進み、まるで差し色の様な黄~赤に色付き始めたオヤマソバの枝葉に癒され(紅葉シーズンには及ばないと思うが)、僅かな距離ではあったが彩り豊かなパノラマ銀座を歩いた事は今回の山行のハイライトであり、素晴らしい経験となった。そしてもう一つ、蝶槍付近では複数のライチョウに出会う事ができ、その可愛い鳴き声、砂浴びの様子など、貴重な瞬間に親子で大いに盛り上がった。

横尾方面下山口となる分岐から急傾斜な登山道を延々と下り、夕方前に横尾山荘へ到着、我ら親子の今年の上高地山行は無事に終わった。夕暮れ、横尾大橋が架かる梓川で水遊びをし、久しぶりのジュースで乾杯をして互いの労をねぎらった。

当初の計画では、蝶ヶ岳から常念岳、燕岳まで縦走して中房温泉への下山を予定していたが、台風10号の影響で急遽日程と行動計画を変更した。子供の行動能力(登降時の歩行速度や休憩の頻度、精神面なども含め)など考えると、結果、今回のコースでちょうど良かったと感じた。また一年、登山の技術や体力の向上に励み、来年も親子で上高地へ戻ってきたいと思う。

※本記事は「岳人」2024年11月号(NO.929)山の掲示板に掲載いただいた記事の原文となります。
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